生頼範義。至高のイラストレーションとその素晴らしき世界を堪能する。

美術/博物/展覧会

スターウォーズ。ゴジラ。ジュラシックパーク。三国志。宮本武蔵。月刊ムー。江戸川乱歩。等々こうした本や映画を知っているであろうか。いやむしろいずれも知らないというほうが難しいかもしれない。

そうした超有名なタイトルの装丁やポスターなどを手掛けていたイラストレーターが生頼範義(おうらいのりよし)氏である。

生頼範義のイラストレーションの世界


生頼範義氏は2015年に亡くなったのであるが、彼の作品は数多く遺されている。奥様の里でもある宮崎での「生頼範義展」は大盛況を博した。私の場合は彼の名を知ったのは、吉川英治氏の三国志、宮本武蔵。山岡荘八氏の徳川家康などの小説の装丁。そしてコーエーのゲーム、三国志、信長の野望、大航海時代をはじめとするイラストである。兼ねてより彼の展覧会に赴きたいという願望があったのであるが、つい先日それを成して大満足に至ったという訳である。

The Illustrator:イラストレーター


私が赴いたのは大分市美術館で行われたもの。彼の素晴らしいところは画家という職業とイラストレーターという職業をきちんと区別して考えている点である。これほどまでに素晴らしい作品が描けるというのに、「画家を目指していたが、それになれなかった。」というのである。

画家という職業は、自分の作品を完成させる。その作品を売るという過程を経なければならない。そこに費やす時間も労力も彼自身の責任に委ねられるのである。しかしイラストレーターという職業は、クライアントの希望、依頼、要望に対して100%の満足を与えられる仕事を成さなければならないというのである。

そして彼にとっては納期というものもとても重要な要素である。下絵でイメージのすり合わせを行い、またきちんと納品する。多くの作品で彼の仕事ぶりが評価され、幾多の仕事にも関わっている。

どれほど信頼を勝ち得るイラストレーターであったかは想像に易い。展覧会において「The Illustrator」という副題が付けられている事も、実に感慨深いものがある。

生頼範義展。ますますファンとなり魅了される場所。

初めて大分市美術館を訪れたのであるが、とても素敵な場所である。内装も綺麗であるし、建築も素敵であった。入り口付近には、記念撮影も可能な恐竜の看板。多くの人がここで撮影していた。小説、ジュラシックパークの装丁に使われたものである。

入場してすぐのところにはスターウォーズやゴジラ、マッドマックス、ジュラシックパークやロストワールドなどメジャーなタイトルで使用された作品が並ぶ。

SFでの作品で宇宙を緑を基調として描く、オーライグリーン。それから構図の背後に悪役などの大きな人物画を配する構図など彼が考案、完成させた手法はとても素晴らしい。

特にスターウォーズは彼自身当初あまり内容を知らずに送られてきた資料だけでポスターを描いている。しかしそのクオリティの高さには驚嘆するものがある。

緻密に書き込まれた一枚絵の中にストーリー性までも感じさせ、ある種ハイライトとしても機能してしまっているのである。

SFアドベンチャー

しばらく奥に入っていくと1980年から1988年まで8年間ほど刊行されていた雑誌、”SFアドベンチャー”の表紙絵のコーナーがあった。ここからは嬉しい事に写真撮影が可能なコーナーであった。

この当時、生頼氏は既に齢50歳を超えていて、卓越し洗練された技術を活かし描かれたものである。ちなみに91人もの美女たちを描いている。一番手前の絵は「シバの女王」である。

上記一番手前の絵画は「パウリナ」。ローマ皇帝マクシミヌス・トラクスの妃である。SF誌という事もあって、宇宙や時間を連想させる構図にもなっている。

上記一番手前の絵画は「ハスドルバルの妻」である。カルタゴが強大なローマ帝国によって滅ぼされた際、生き残ったカルタゴ市民は総じて奴隷とされた。

将軍であったハスドルバルは命乞いし生命だけは安堵されたのであるが、その妻は子と共に火に身を投じて焼かれてしまう。そうした気概を持つハスドルバルの妻。

その他この一角は多くの展示がなされていた。作品とスケッチの両方が展示された部分もあった。小物などを用意してポラロイドカメラで撮影。

そうしてモデルデッサンを行っている。その過程の多さが、相当にリアリズムを追究し、またそうした過程をとても大切にされる方であることが伺えるものである。

自画像

中には自画像も展示されていた。油絵のものと線画のもの。仕事中はバンダナを愛用されていたとのことである。

ところで彼のアトリエは九州は宮崎市、その郊外の田舎にあった。農家の古民家を改装して住居とし、その敷地内にアトリエを構えたとのことである。そしてその理由が東京にいては忙しすぎるあまり製作時間を確保できないというものであった。

デビューから10年ほどで宮崎に拠点を写したという事であるから、その凄まじい売れっ子ぶりには驚きである。そして彼がイラストレーターとして遺した作品数は膨大な数に登る。

戦争画

生頼氏が力を入れて取り組んでいたものの一つが戦争画であるらしい。

撮影可能な物はとても少なかったのであるが、戦闘機と戦車が入り混じる戦場。戦艦同士での砲撃戦。戦闘機や爆撃機などの空中戦。ミッドウェー海戦。ハワイ作戦。ソロモン海戦。絨毯爆撃で燃える市街。ジャングルで戦う姿を描いた玉砕。あらゆるシーンをとても力強く描いている。

彼の緻密な描写力で戦争画を描くとその迫力に圧倒されるものがある。イラストレーターである生頼氏が描く戦争画と、これもまた私が好きな画家のひとりである吉田博氏の戦争画を見てみるとその雰囲気が全く異なるというのも印象的であった。

どちらかといえば生頼氏がその場面の客観性だと捉えるならば、吉田氏はその場面の主観性と言い換えることもできるであろう。しかし私にとってはどちらも素晴らしい。

画家としての生頼範義

この展覧会の最後にはオリジナル作品というコーナーがあった。中でも私の心を打ったのはこの”死んだ鷺”という作品であった。緻密なタッチでありながらどこかその精神性までも含んでいる気がしている。

“サンサーラ”という作品。様々な生命の形などが混在していて面白い。私が単純に想像する生頼氏らしさみたいなものを含んだ作品である。

やはり彼からは何かSFみたいなものの世界観を想像してしまうし、そうしたものを期待してしまう所なのである。

生頼範義氏が手掛けた本の装丁。その山。

会場には生頼範義氏の手掛けた装丁本が積み上げられていた。その数は膨大な物であり、これでさえも一部であるというから驚きである。しかも一つ一つのクオリティの高さには舌を巻くしかない。これほど素早く正確に依頼者の期待に応えてきたということの証左でもあるのである。

しかもこれら以外にもポスターなど様々な仕事を引き受けているのである。装丁の事に関しては、この小さな本の表紙にしてはかなりの大きさで原画が描かれている事である。更にはその原画でさえその緻密さはものすごい労力を感じさせるものがある。

それにもかかわらずこれほどまでに縮小するのであるから、そのクオリティは一段も二段もグレードが上がるに違いない。

生頼範義展では多くの作品が展示されている。上記では撮影可能な場所もあり大いに嬉しい気持ちになった。しかし展示されている作品はまだまだ相当数に上る。

上記の装丁での三国志、平家物語、宮本武蔵、水滸伝などとても素晴らしい線画が展示されていたし、そうした歴史物から入った私にとっては歓喜の展示もあった。更に人物伝の装丁にもある点描画の展示もあった。

あまりにも素晴らしい絵画に唾をのんだものである。様々なタッチで描かれる素晴らしき作品群。その作品の良さを伸ばす装丁や挿絵がなされている。吉川英治氏の描く歴史小説は余りにも名著が多い。

しかしその中の挿絵や装丁が生頼氏の緻密な描写と依頼主本位の仕事によって、その作品の価値を更に更に高めているのである。

生頼範義展のグッズ

展覧会では、ゴジラやスターウォーズのアートフレーム(複製原画)3万円から5万円程度のものやデザインTシャツ。キーホルダーやマグネット。ポストカード、クリアファイルは多くの種類が販売されていた。個人的には手ぬぐいが嬉しい買い物であった。

他には生頼範義モデルの筆なども販売されていてかなり充実していた。生頼氏がリキテックスという画材を愛用していたこともあって、オリジナルモデルも販売されているようである。

私が購入したのは生頼範義拾遺集の図録3点セット(税込12,312円)。会場限定で美しい箱まで付いている。そして家に帰ってから楽しんで読んだのであるが、かなり素晴らしい本。買って後悔はない。いやそれどころか買わないと後悔しそうである。

上記はセット内容。単品での販売もされている。三冊とも素晴らしい内容である。レビューなどを拝見しても評価が非常に良い。私にとっては一生大切にしたいものの一つとなった。

内容が纏まっていて生頼氏の作品を俯瞰できて拾遺集には入っていないものも含まれている。またアトリエやその思想までも記されている。内容は充実しているにも関わらず値段は手ごろ。予習するにも最適。

日本イラストレーションの開拓者

日本にこのようなイラストレーターが居たという足跡を感じる事が出来るだけでも幸福なことである。そして多くの作品が今遺り、それをこうして見ることが出来るのだ。

おそらくこの国におけるイラストレーションの先駆者であったといっても過言ではないと思われる。後進にとっては学ぶことも多いのではないだろうか。集合絵の構成力、そしてそれを活かした構図を完成させた立役者。

こうした考え方は多くの人に影響を与えたはずである。そして展覧会で原画を拝見すると、普段目にする多くの装丁とは異なる感動を味わった。ますます魅了された今回。今後とも注目していきたいところである。

生頼範義展 The Illustrator

大分市美術館屋上から撮影した大分市内。梅雨の雲が上空を覆いっていた。街は日差しが遮られて薄暗い。それにも関わらず天空の様子はというと所々から青空が顔をのぞかせ幻想的な雰囲気が漂っていた。

この展覧会を見た直後だからであろうか、どこかそんな感じを受けるのである。今後、東京などでも巡回展が予定されている。”生頼範義展 The Illustrator”は、もちろんご存知の方にも、これまで知らなかったという方にもおすすめできるイベントである。

この記事を書いた人
滝坂次郎

デジタルもフィルムも愉しんで、写真を撮って歩いてます。

足元を見てみると知らないことだらけ、少しでも自分の世界のものの見方を広げ、他人の楽しみを自分の楽しみにできたら良いなと考えてます。

滝坂次郎をフォローする
スポンサーリンク
スポンサーリンク
美術/博物/展覧会
滝坂次郎をフォローする
LocalResearcher|weblog
タイトルとURLをコピーしました