錦秋に泳ぐ|生きとし生けるもの-瞬-

生きとし生けるもの「瞬」vol.10

 秋には必ず訪れるスポットがある。その神聖静謐な雰囲気は時間の流れを感じさせず、その環境の中に魂までも溶け込んでしまいそうになる。それほど惹き込まれてしまうほどの魔力がここにはある。そして忙殺される日々から久しぶりの休日。朝の冷ややかで湿り気を帯びた艶やかな空気を全身に浴びて、ただ無心になることが出来た。

滝坂次郎

朝の光が広がる水面に錦秋の鯉。

 朝の光はなんとも美しい。まだ太陽が顔を覗かせたばかりで、山脈の間から光が通ってくる。またその光は林の中を抜けてようやく水面に反映された。

 
 

 間を抜けてきた光は、美しく透き通った池底を照らす。合間の木陰に油絵のように広がる色彩。風によって形を変えていた。その中を悠然と泳ぐ鯉の姿に魅了されるのである。

  
 

 風が吹けば銀杏や紅葉の葉が舞い、水面に落ちれば波紋が広がる。自然美に圧倒されながら魚の動きに目はくぎ付けだった。

 写真はあの感動を今に遺す。その感動はやはりあの時あの場所という現実が担保してくれているものだった。だからあの空間に身を浸すという行為こそが至高のもの。今写真を見返してみてそのように感じた。

錦秋

 この場所はまさに「錦秋」という言葉そのもの。錦の鯉が泳ぐかと思えば、錦の絵のようなリフレクション。秋の色彩の豊かさがまさにこの場所に息づいていた。ところで秋の色は夏の色とまた異なる。朝夕の光の柔らかさも、いや日中でさえ比すると淡い色に包まれる。極めて濃淡の美しい季節だと思う。冬に備えた木々が少しずつ葉の色を落としていく様子さえも、また淡い光そのものによって更に豊かな色へと繋がっている。忙しい日々ではあるが、ただこのひと時を思い出すだけで、心の豊かさを取り戻すことが出来る。人はまたこうして生かされるのだろうか。

撮影機材/本体:Canon EOS 5DmarkⅣ(フルサイズ:一眼レフ)
レンズ:EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMEF24-70mm F4L IS USM

ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。