阿蘇紀行-ASO GLOBAL GEOPARK- Vol.16 春/天の川と雲海

阿蘇紀行Vol.16

 春は秋と同様に朝晩の冷え込みはなかなかのもので、阿蘇の山上ともなればやはり手袋がほしいほどだ。山で見る星々は特に輝きが美しく、産山村に以前住んでいたときはその感動すら当たり前になっていた。しかし今星空を眺めてみると、あの頃がとても贅沢な時間を過ごしていたんだなぁと実感する。

滝坂次郎

阿蘇の魅力ある角度を堪能する。

 私が住む熊本でも身の回りの草木がとても著しい変化をしている。黄色く芽吹いたと思えば、黄緑になり、そして濃い緑へと変化していく。そうした様を見ているだけで、とても気持ちが良い。山々を見ると同様に黄色や黄緑、深緑。そんな風にあらゆる色が交錯し、紅葉とは異なったまばゆい色を織りなしている。この季節は”紅葉”ではないが、”黄葉”と言って行楽してもいいのではないかと思える程、その美しさが一段と映える季節でもある。これから燦々と降り注ぐ太陽の恵みを受け取らんと、葉緑体を増やしていくのを見て、我々の新年度も清々しい気持ちにさせてくれるものである。そしてまた一層励みになるものだ。

天空を覆うほどの満天の星空


 一日を終え、一息ついた頃。出かけてみる。丁度日付が変わるか変わらないかというような時刻に外に出た。行き先は阿蘇の外輪山だ。私はどうしても産山村で以前見た満天の星空を懐かしんでいて、それを再び見たい気持ちになっていたのであった。

 到着して車のライトを消してみると、その星空の美しさには感動したものであったが、それ以上に少しばかり目が慣れてくると天の川もはっきりと見ることが出来る。周囲のことはヘッドランプを持ち歩いてようやく理解できる程度でしかない。

 その深遠なる闇夜の中では神経を研ぎ澄まさなければならぬし、その後は気配でのみ物事を少し把握できるのみなのだ。

 そうして野生における他の生物の存在についてようやく考えを巡らせる。こうした状況の下では、人間というのはどれほど小さな存在でか弱な存在であるかという事について少しばかり考えた。

 

 ミルクロードへ引き返し、阿蘇谷を覗き込んでみるとその光の眩さに驚いた。時間も少しずつ朝に近づいていた。夜明けを待つ街には少しずつ霧(雲海)が立ち込め始めている。阿蘇五岳に向かって天の川が架かる。時折、流れ星が駆け抜けていくのが見えた。

阿蘇谷に満ちる雲海

 夜明けを迎えるまで暫く待機することにした。しかしいつの間にやら辺りはぼんやりと明るくなり始めている。久住の方から太陽が顔を見せると、橙色の光が阿蘇五岳を指し示すかのように伸びてくる。コブのようになった丘陵は、若葉の茂る緑と枯草の茂る黄が境界線のようになっている。

 
 

 日の出を迎える。少しずつ昇りゆく日輪。それに伴って丘陵地帯に光が差し込み、徐々に徐々に輪郭線を這うように覆っていく。ぺんぺん草に光が当たった。阿蘇谷には雲海が満ちた。阿蘇の山々の尾根筋がはっきりと分かる程強調されている。こうして安っぽい表現はあまり使わないようにしているのだが、まるで絵画のようだった。そう言ってしまいたいほどに素晴らしい光とそれが織りなす淡く優しい色に魅了される。

 

 太陽が上がり切ったというのに、なかなか雲海が霧散することがなく、暫く残り続けていた。霧(雲海)が架かるということは、今日の天気は保証されている。実際のところその上空には雲一つない日本晴れであった。また杉林の間を縫うように入り込んでいた。こうした情景はとても美しく心を打った。

春の景色/”黄葉”を愉しむ。

 牧草が生え始めた原野では、もう放牧が始まっている。赤牛たちは思い思いに若草を食み、広大な草原を謳歌していた。

 
 

 春の草は背がまだまだ低く、牛の姿も埋もれてしまわない。美しい緑のグラデーション。

 春の日には珍しいPM2.5が少なかった日に阿蘇外輪山より遠望を見渡す。熊本平野が眼下に広がり、またその奥には金峰山、そして有明海と雲仙普賢岳まで見渡すことが出来た。

 
 
 

 春の木々は様々な色を持っている。そこに日の光が当たると益々輝きを持つ。

 季語にあるように春は山笑う季節だ。この時期に見逃せないのがあの森だ。阿蘇北向山原始林は、植生がとても豊かな極相林。この山のある立野峡谷付近は大規模な土砂崩れが発生していた場所。しかし、この森は周囲と比べて比較的その被害が少ないように見受けられる。それはやはり、この森があるからに違いないのだ。

 この季節に見る森もとても美しい。しかし、今後工事の如何によってはこの森の多くが姿を消すことになる。その前にやはりこの目に焼き付けておきたいと思い赴く。日本の7割は山岳地帯であり、森林地帯でもある。この九州では、その森林地帯の杉林の割合が全国的にとても大きいのだ。そんな中にあって、この北向山は日本の九州の原生林が今に遺されている。この場所を見ると、九州熊本の本来の姿を確かめることが出来るのだ。

眩い光と淡い色

 いまや夏日となる日も増えているが朝晩は冷えたりする。昼の太陽はギラギラとしていてとても眩いが、同時に風が冷たく外の方が過ごしやすかったりする。朝夕の光は日中とは打って変わって優しく朧げだ。そんなときに醸し出される色の情景がとても心地良い。また動物たちにとっては恋の季節でもある。これから勢いを増していく動植物。日常の風景の中も含めて、愉しみは多くなるばかりだ。

ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。