阿蘇紀行-ASO GLOBAL GEOPARK- Vol.14 野焼き前

阿蘇紀行Vol.14

 春の嵐が最近吹き荒れている。車のボンネットにはいつも灰か砂か排煙か、いずれにしても必ずと言って良い程汚れが付着する。季節風は春霞をもたらす。いやこの霞みは花粉だろうか。冬の透き通ったひんやりとした空気から、朧気な空気が春を予感させる。西からくるこの風は中国大陸からのお土産を多く運んできてくれる。

 しかしこの日は前日の雷雨から一転、日本晴れと相成った。喜ばしい事に素晴らしく澄んだ空気はどこまででも見渡せるような錯覚さえ起こる。順光で見る色彩の濃い事といえばこの上ない。これほどまでに自然界の色というのは鮮烈さを持っていたのだろうか。

滝坂次郎

阿蘇という美学

 春夏秋冬、いずれにおいて素晴らしい景観が広がっている阿蘇。野焼き前の阿蘇は、自然と人の営みが紡ぎ合う素晴らしい芸術だ。そこに広がるのは人智を越えた美しさである。草原地帯と緩衝地帯である杉林、そして田園。山の恵みが全てを潤す。そこには調和する伝統と文化がある。

馬が闊歩する草千里

 馬が水を飲み、また戯れている。否、ここは蒙古ではない。杉林は赤く染まり、春の風に乗せて花粉を飛ばさんとしている。青と赤の対比がとても珍妙な景色に思えた。

阿蘇、火山が生み出す造形と色彩の豊かさ


 熊本地震の爪痕が残る山肌。鉄分を多く含んだ深紅の岩壁。傷跡を少しずつ植物が覆い隠していく。まるで出血した箇所に皮膚が生成され、治癒していくように。遠くを見ると青い空に灰が被る噴火口。鮮やかな色が強烈に主張する日。素晴らしく色が交錯している。

 中岳噴火口の山裾。深く刻み込まれた皺のような谷。緑に残る杉と灰を被った杉。手前の馬酔木林が少しずつ色づいている。尾根に光を浴びて黄金に染まった草原がのびている。光が強く、空気が澄み渡っていて、とても解像している。

山肌に残る樹氷

 日陰で強風吹きすさぶ場所では、未だ樹氷が残っている。以前もこの時期の阿蘇には幻想的な光景が残っていた。冬の名残を残しながら、溶けていく姿を見ながらこれからの季節を連想する。


…山特有の強風によって横に伸びた氷。どうやらこれは天然の羽根のようだ。-阿蘇紀行 Vol.3 杵島岳 より

阿蘇紀行-ASO GLOBAL GEOPARK- Vol.3 杵島岳

2017.02.27

圧倒的存在感・米塚/自然の創り出す芸術

 その造形美は自然と人とが織りなす調和によって出来上がっていた。深く刻み込まれた大地の皺。その皺の間の尾根筋にそって素晴らしく丁寧に刈り取られた牧草。米粒のように小さな自動車がそのスケール感を示していた。一番深い皺が指し示すように辿り着くのは、均衡のとれた美しい山。米塚だった。「外輪山・杉林・田園・杉林・牧草地」自然と共生しながら、その境を尊重する暮らしが見えてくる。

 

自然が織りなす造形は想像を超越する。

 

深く澄んだ空気が色の世界を広げていく。

 有名な草千里。人の顔に見えるこの場所は本当に面白い場所の一つ。男性が帽子を被っているように見える。あの山は烏帽子岳。しかしいつも私は、どちらかといえば長い髭に見えてしまう所なのである。

 阿蘇の造山活動の結果生み出された芸術。黄金の草原、灰色の不毛地帯、赤紫に切り立った岩壁、そして雲一つない青空。この素晴らしく美しいボーダーカラーは私の心を魅了した。

魅了された阿蘇の眺望。

 次第に傾いていく太陽。米塚の陰影を際立たせている。

 山脈の合間の影は次第に伸びていき、影が落ちる部分も増える。それに伴って陰影が際立った。影の谷間にある冬枯れの木が明るく照らし出されている。美しい光の造形である。

 とても澄んだ空気は一日続き、阿蘇からはっきりと島原半島を眺めることが出来た。橙色に染まった有明海、そして雲仙普賢岳の姿に神秘性を感じるほど。この季節にここまでくっきりとその存在を見ることが出来るのはとても嬉しい。距離感を感じさせない光景に暫し目を奪われる。

光、自然美、営み。複合芸術となる。

 少しずつ凸凹した丘陵地帯。街が完全に山陰に飲み込まれる寸前、素晴らしい光が辺りを包んだ。温かな光がその色を生み出す。日の高いうちに見られたような鮮烈な色ではない、淡く儚い色彩美。この光景も一期一会。それを心にも焼き付けながら、一枚一枚、一瞬一瞬を咀嚼し飲み込んでいく。

阿蘇という哲学

 ほぼ一か月ぶりに訪れた阿蘇。やはりこうして通年撮影してみると分かる事がある。「その一瞬は、その一瞬しか出会えない。」というものだ。兎に角、それほど毎回違った驚きと発見に満ちている。2月28日には震災後にしてようやく火口見学が再開された。しかし結果として見学が可能だったのは2日間だったようだ。これもまた自然の成り行きであろう。いつかまた中岳や高岳に訪れて、もっともっと良き出会いに授かりたいものである。これからもその一瞬一瞬を大切に、写真というものを続けていきたい。そんな風に感じ入るところなのであった。最近、ポジフィルムで作品撮りを行っている。今回ももちろんポジフィルムでも撮影、また違う表現で新たな出会いを楽しみにしているところである。


ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。