祖母・傾・大崩紀行-Sobo,Katamuki and Okue Biosphere Reserve- 渓谷の色彩

滝坂次郎

祖母・傾・大崩紀行

 祖母山や傾山、大崩山などは九州のへそ当たりにそびえる山々。九州に住む登山愛好者なら登ってみたいと一度は考えるであろう名山である。祖母山付近では九州地域で絶滅したとされる熊の目撃情報が近年あるなど未知なる部分を隠したる秘境ともいえる場所なのだ。九州では珍しくニホンカモシカの生息域としても知られている。つい最近のことであるが、ユネスコエコパークとして登録されることが決定した。そんな訳でこのタイミングでこの地域へ私も足を運んでみることにした。今回訪れたのは、大崩山麓の藤河内渓谷という場所だ。

秋の紅葉と渓流。美しき渓谷で足を止める。

 実をいうと以前より藤河内渓谷へは興味をそそられていて、いつかは足を運ばんとしていた場所なのだ。今回、紅葉が見ごろである旨の情報を得て、訪れてみることにした。この場所は、渓流で遊びまわるキャニオニングというスポーツが盛んなようだ。検索すると「藤河内渓谷 ヤマビル」というものが予測提示される。そんなこともあってヤマビルに対する備えも万全に、意気揚々と赴いた訳だ。しかし5時間も滞在しながら被害は無し。存在も確認できなかった。さすがに11月にもなると活動は消極的になるのであろうか。とはいえこのことは大型哺乳類が往来する地域であることを物語っているともいえる。実際、この場所の自然に魅了され没頭。多くの時間を費やしてしまった。

朝焼けに包まれながらやまなみハイウェイを行く。


 産山村にて撮影。もうすでに久住山麓の紅葉は終わりかけていた。しかし朝日を浴びた森林と残る紅葉が魅力的であった。雲も同様にその光を浴びている。これからの撮影行、吉兆を予感させてくれる。


 久住山麓を通過中。雑木林の合間に宝石のような輝きを見た。

この渓谷は静謐な雰囲気を湛えていた。


 渓谷には影が多くできる。周囲の木々がその影絵を描いていく。そしてそこに存在した大きな岩は一つのキャンパスとなった。その直下に一筋の水流が流れ込む。流れゆく落ち葉は行き場を失っていた。


 行き場を失った落ち葉は逃げ道を探さんと、その場所を彷徨っているようだった。紅葉した木々。そしてそれが写りこむ水たまりの光景に心惹かれた。


 谷に光が差し込む。岩の輪郭と質感を際立たせてくれる。そして水の音が心地良い。

渓流を下りゆく水


 紅葉する木々の光を湖が受け止める。ギリギリまで行ってしゃがみ込んで撮影していたのだけれど、重い荷物で足が痛む。それでもこの場所を前後左右に少しでも揺れてしまえば水の中にドボン。そんな緊張感の撮影。しかしこの静謐さをなんとしても写真に収めたくなった。


 この場所の魅力はなんといってもその丸みを帯びた奇岩。その上を水がとろけるように滑っていく。エメラルドグリーンの水。そしてその水が鏡のように黄色を写し撮った。


 水を正面から撮影する。上記と同じような状況。少しだけ飛び出た浮島のような足場で撮影。


 撮影中、この独特のまるみを帯びた形状の上で少し滑って危うく谷筋へ落ち込みそうになってしまった。下りゆく水の流れ、上善は水の如し。


 流れるような曲線が美しい岩々。そしてそこを流れていく水。堅い岩と柔らかな水が同じような形状をしている。こうした浸食のされ方がとても面白い。撮影していると中年ほどの男性がこの岩を飛び越えるように渡っている。まるで鴨川の飛び石を渡るかの如く。その軽快な身のこなしに舌を巻いた。

紅葉に染まる渓流。


 石畳のような美しい場所を流れていく水。そこに映りこむ彩りが好い。


 木々の合間をぬった光が岩々を照らす。そのデザイン性の良さといったこの上ない。白い岩肌に赤く縞模様。


 水甕に落ち葉を蓄えているような風景。そしてその水には紅葉した木々を映し出していた。このとても美しい光景に感嘆する。まるで再びその葉を装ったようにさえ見える。

美しき出会いは、一瞬の煌き。


 奇岩の合間を縫うように水が流れる。ある木に日光が照らすと美しい色が更に沸き立つ。素晴らしい光景に息をのんだ。この場所で撮影したあと一度離れるが、往復のためもう一度同じ場所へ訪れたときには、間もないというのに光は次なる場所へ移動していた。この光景は一瞬の出会い。その時をどう捉えるかという時間的制約は常に存在している。

藤河内渓谷を訪れ時を忘れる。

 今回初めて訪れた藤河内渓谷。素晴らしい場所であったし、足を一歩踏み入れた瞬間にすぐ魅了されてしまった。静謐な空気感に包まれる渓谷。ただただ水の音に包まれていた。時折甲高い小鳥の鳴き声がその音をつん切る。紅葉の時期に訪れてみたものの様々な季節に訪れてみたい場所である。今回紅葉という部分に意識を傾けていた。しかしもっとこの空間そのものに浸りたいのである。しかしながら今年、平成29年の台風18号の爪痕は随所に見られた。土砂崩れのあと、そして散策路は破壊されている部分もあった。見どころの一つ、観音滝は見ることが出来なかった。それでもこの渓谷の見どころは余りある。


 帰り道の山々。紅葉する山があるかと思えば、管理された杉山が交差する。そんな面白さを感じながら山道を下って行った。その道は自動車がやっとやっとすれ違えるか否かという具合の山道。それでもこの山の空気は清々しい。それは心身を癒していく魔法のようなものだ。ふと時計に目を見やる、なんと5時間もの時間を費やしていた。まさに没頭してしまっていたのだ。祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク。この地域に今後もたびたび足を運んでみたいところである。

ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。