阿蘇紀行-ASO GLOBAL GEOPARK- Vol.8 阿蘇谷

滝坂次郎

阿蘇紀行Vol.8

 梅雨の季節になると一面の草原は輝きを増し、また隆盛を極める。この時期、植物にとっては嬉しい降雨。農作物にとっても恵みをもたらすのである。かといってこの地域でも数年前には九州北部豪雨という未曽有の災害に見舞われた。そのような事を考えれば、降らなければ心配は募るばかりであるし、降ってもそれはそれで心配になってしまう。そうした心配を他所に、自然は常に今あるべき姿を留めている。そして私はそこに美しさと包容力を感じるのだ。そういえば今回。牧野を駆け回るキジを見かけた。そんなひょんな出会いにも生命力を感じる。私などは、特にその日の天気に一喜一憂する時期であるのだけれど、自然にとっては、雨も太陽もいずれも恵みであったのだと考え直す。

梅雨の阿蘇谷

青き空と大地

阿蘇の谷と外輪山
この季節の阿蘇谷は既に田植えが終わり一段落。稲の背丈もぐんぐんと伸びて、一面を青くなった田が谷を覆う。いつも思うのであるが、牧野があり、里山があり、村落がある。こうした光景はとても面白い。棲み分け、緩衝域としてのコントラストを感じる所である。青々とした空と青々とした大地。いつまでも見ていたい光景である。

梅雨の阿蘇谷

阿蘇の風景
梅雨の阿蘇谷は、周囲の草原と村落の田園が一体化したかのように染まる。

草原と山林を縦横無尽に走り回る雲

阿蘇の牛馬
夏の雲、いや梅雨の雲の動きというのは一日中めまぐるしい。特に山に囲まれたこの地域の雲は、集まったかと思えば消えていく。谷には青き風が吹き渡っている。そんな風に運ばれて、山林や牧野を雲の影が走り回る。光は草を食む牛馬を優しく照らし、また陰を作る。この場所に立ち目の前の風景に目を凝らす。時の移ろいを感じるというのに、時の感覚を失っている。

阿蘇の山肌

沸き立つ芽吹き

阿蘇山の岩肌
阿蘇山上へ目を見やると、緑々しく、麗しい山肌がその姿を見せていた。夏ともなれば豪雨や地震による傷跡も生々しく浮き上がる。しかしこの傷跡もまた、時間の経過とともに自然に備わる治癒力によって、漸進的に周囲と同化していく事であろう。

青田の風景

梅雨空の阿蘇谷

阿蘇の田園
雲の影が田園をかけていく。そんな光景が美しい。阿蘇谷から外輪山を見渡してみると、稜線に沿って雲が覆っている。多く水蒸気を含んだ空気が山肌を駆け上がる。そうして冷やされた空気は雲となる。

青田波に抱かれて

阿蘇の稲穂
谷に吹き渡る風。その風によって稲穂が波打つ。サワサワと稲穂の音が鳴る。同時にヒグラシの無く声が何処からともなく聞こえてくる。暑くも涼しい。そんな梅雨の季節である。


 美しい田園風景が広がる。外輪山の麓。若い稲は初々しい緑色に染まる。この季節に見ることが出来る美しい風景だ。ただしその時々に唯一無二の光景が広がり、今の季節もまた同様に目に焼き付けておきたいという気持ちになる。

阿蘇の梅雨。その季節感。

この阿蘇紀行では阿蘇の一年の流れを少しでも捉えている気がしている。四季折々に美しい光景が広がるが、この季節は生き物たちが沸き立つ季節でもある。青々とした大地と空。そうした光景が広がるこの時期もとても好い。南風は温かい空気をこの地域にも運び入れ、山脈には雲が沸き立つ。その雲がその風に運ばれていく。斜陽ともなれば優しい光が柔らかな影を作り、風景の中に柔和な表情をのぞかせる。時折吹き渡る風。そんな風が草原の草花を揺らし、そして田園の稲穂を波立たせる。そしてこの時期の夕暮。ヒグラシの声が美しくも儚い。そんな声を里山に響かせる。この時期を過ぎればもう夏本番である。

阿蘇の梅雨空

梅雨の阿蘇。厚い雲が谷を覆う。

ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。