【さろく旅】熊本中心部。立田山憩いの森を散策。標高152mの頂きへ。

 熊本市内には森林浴が出来るスポット立田山憩いの森がある。この山には毎日数多くの方が訪れ、思い思いの散策を楽しんでいる。海山川そして市街とあらゆるものがまとまった都市である熊本。この山も例にもれず、都市部に存在しながらも野生動物の住みかとして機能している。私はこの場所が好きで、事あるごとに通っている。しかしその都度ここが見せる表情は違うのである。日々の季節の移り変わりを全身全霊をもって感じることが出来る。そしてこの日は大晦日であったが、撮り終えて記事を編集している今。写真の撮り納めの場所としてこの場所を選んだのは正解であったという感慨に満ちている。
滝坂次郎

小鳥のさえずり。木洩れ日。標高152mの立田山憩いの森を散策する。

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 霜柱がたつ。光のベールに包まれ、和らげるその表情。
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霜が舞い降りる

 早朝に身支度を整え出立。8時に到着する。車を止めようとしていると、同じようにこの時間に来た2,3台の車の方々もカメラを片手に山の中へ入って行った。「冷えるねぇ」と声を掛けられる。「ホント寒いですね」。それもそのはずで、この年末は大いに冷え込み、霜が舞い降りていた。霜が舞い降りると景色は一変する。ガラス片のようにキラキラとそこらじゅうが輝いて見える。草花がそのベールをまとい、一歩足を踏み入れると「ザクッザクッ」と気持ちの良い音がする。幼き頃こうした草むらの中の音を聞くため、わざわざ草の生えた土の上を歩いていた事を思い出す。そうした肌感覚さえも忘れ始めていたことに気付かされてしまった。自然の中では、たったこんな事でさえ興味が尽きないものであったのだ。

融解撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/EXTENDER EF1.4X III/三脚

 一帯が白く輝く草花。そこに太陽が昇り、景色を一変させていく。霜が降りた草花を融解させていくのだ。光は全てを包み込んでいく。その光景がとても神秘的である。日の光の当たった場所は次第にその頑なな表情を和らげていくようだった。丁度光芒が差していて光のカーテンといった風情だ。光が当たるとすぐに本来の色が浮き出てくる。たった数十分の出来事であるのに、こんなに豊かに表情を変えてしまうのである。光が当たると身をもたげていた草花が一斉に背筋を伸ばす。目覚めの時だ。

氷解撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/三脚

 一角にはスポットライトを浴びているかのような木があった。とてもきらびやかで美しい。この時間の主役である。この木は紅葉を終え、葉を落とし切ろうとしていた。紅葉狩りの季節が終わっても、その魅力は俄然衰えてはいない。私の場合、不思議と今度はその幹の形状に目が行ってしまうようになる。枝々を側光が照らし、その陰影をはっきりとさせる。木はこのときを待ち侘びていたかのようだった。辺りの草花と同様、すこしもたげていた枝の先は持ち上がる。生気を感じる一瞬である。

こがれたモミジ

 その木には、一枚二枚と落ちていない葉がついていた。撮影していると頭の上にもすたすたと融解した水滴が落ちてくる。こんなにも寒いときに既に鳥たちは餌を探して飛び回り、あらゆる方向から鳴き声がしていた。目覚めを迎えた動植物。それは勿論ここにいる私も同様、日光を浴びて生気がみなぎってくるようであった。こんなに気持ちよく朝を迎えて、美味しい朝食を食べられない訳がないのである。日が沈めば体を休め、日が昇れば活動を開始する。昼行性動物としての”私””人間”を意識する瞬間となった。

霜柱撮影情報:EOS 60D/EF100mm F2.8L マクロ IS USM/三脚

 ところでよく「霜柱がたっている」と表現される。それというのは本当である。霜をよくよく目を凝らしてみると、幾重にも氷の結晶が折り重なっている。まるで天然の剣山のようである。自然というのはとても面白い。というのも、ミクロの世界だろうがマクロの世界だろうが、すべてが完璧な被写体となり得る気がしている。こうして小さな世界に目を凝らすとまたそこには大きな世界を感じることが出来るのである。私の場合、この世界を”私”を中心にして理解しているが、実はまだまだこの世界(場所)を理解しているとは言えないのだ。見方が変わればまたそこに大きな世界、宇宙が広がっているという訳である。こうして撮影している間、寒さで凍え、手足の先がとても痛くなってきた。いやむしろそれを通り越して感覚がなくなってきた。そこで一時退散し、指先を温めてから改めて散策することにした。

上バー 釣り人とアオサギやオオバンの池。サクラ池。
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サクラ池

 私が最初に訪れたのはサクラ池という場所であり、大体いつもこの場所から散策をスタートする。いつもは釣り人がこの周辺にいるのだが、本日は珍しく見かける事がなかった。その代わりに見かけたのはアオサギである。ここにいる魚はとても人気者だと思うのだ。もうこの頃になると朝の10時すぎとなっていて、霜も溶けてなくなっていた。勿論手足の感覚もすっかり元通りである。

アオサギ飛翔撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/手持ち

 アオサギは餌の時間になるとこの池で見かけることが多い。同じ個体かどうかまでは不明であるが、この場所では、大体一羽が魚を探しているのを見かける。この日もいつも通り岩と岩などを三角飛びしていた。お気に入りのコースであるのだろうか。アオサギは飛び立つ前に一度首をゆっくりと曲げる。その後前かがみになると同時にグイッと首を伸ばして飛び上がるのである。飛び上がった後は再び首を曲げて滑空する。全体的にゆっくりとした大きな動作をしている。とはいえ狩人の眼付をして狙いを定め、獲物を捕らえる時は目にもとまらぬ速さ。優秀な狩人らしく、抜き足差し足、そして攻撃は蜂のように鋭い。そのように緩急を備えた鳥である。

アオサギ撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/三脚

 サギは非常にポピュラーな種であるが、何故か惹きつけられるとても魅力的な鳥だ。この時丁度湖面が光に照らされている箇所があった。そこにアオサギを納めて撮影してみる。朝日のように傾斜のある光はあらゆる被写体を魅力的にしてくれる。この柔らかな光はこの主役の魅力を引き出してくれるのである。どこかモデルのような佇まいをしている。ところでこのサクラ池には様々な野鳥が訪れる。このときアオサギのほかに、黒の羽毛をまとったオオバンが池で潜水していた。ところでこのオオバンはこの時のみならず、つがいでこの場所に生息していて”鴛鴦の契り”というべき程に共に行動していたのであった。後に雁帰る季節となる初夏あたりまでその姿を見かけたものだ。この日も一通り潜水が終わると岩の上に上がって羽を休める。

泳ぐオオバン撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/EXTENDER EF1.4X III/三脚

 風が少ない今日は水面も鏡のようになっていた。オオバンが泳ぐと水面が揺らぐ。ちなみにこのオオバンは日本では年中比較的見られる鳥である。これも日本特有の事のようだ。主に水草を食べるようだが、この鳥の潜水時間はものすごく長くなることがあって、姿が見えなくなったと思っていたらひょっこり頭を出す事が良くある。

上バー とても歩きやすい立田山を散策する。
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立田山登り口

 この立田山の散策路は特に木漏れ日が美しいと思っている。歩きやすい為、毎日ウォーキングあるいはランニングしている方も多くいる。私が写真を撮っているといろんな人から声を掛けられる。そうしたふれあいの一つ一つがこの景色と相まって清々しい気持ちにさせてくれるのだ。

ヒヨドリ

 しばらく道なりに歩いていると大木の木々が実を蓄えていた。上を見上げるとその実を美味しそうに頬張る鳥の姿がある。ヒヨドリだ。己の顔の大きさと変わらぬような大きな実さえ一飲みだ。ヒヨは日本には留鳥として一年中みられる比較的ポピュラーな鳥であるが、海外ではあまり見ることが出来ない。その為日本らしい鳥の一種だと言える。

木立ち撮影情報:EOS 5D Mark IV/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/手持ち
 
 木立ちの間からは光が差し込む。光の筋がまっすぐに伸びている。そこに映し出されるシダ植物が普段ならば素通りしてしまうものだが、とても美しく見えてくる。その形状は独特で面白い。私は立田山でこうした普段はスポットが当てられにくい陰性植物の魅力を発見したと言ってもいい。

立田山ルート

 暫く歩くと分かれ道がある。私は右から頂上へ向かうことにした。まず少し階段を登る。

上バー 野良猫。送り猫。に出会う。
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野良ネコ
 歩いていると急に野良猫が現れた。この立田山は野良猫の数もとても多い。毎回と言って良い程猫に遭遇するのだ。しかも人慣れしていない。ほとんど野生状態で生活している猫だと思われる。人が近づくとすぐにこのように逃げ去ってしまう。そして安全な所から様子をうかがう猫。

送り猫

 今回であった猫は三毛猫で少し小柄だった。まだ若い猫だと思われる。送り犬ならぬ送り猫的について回ったり、また振り返るとすぐ逃げてしまうのである。とても警戒心が強い。

以前このあたりで出会った猫は黒と白の模様をしていた。この猫もとても警戒心が強かった。夏の猫

上バー 標高152mの立田山の頂上へ向かう。
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S字カーブ

 だんだん高くなってくると周囲の雰囲気も少し変わってきて、潤んだ空気から乾いた空気へとなっていく。この辺りの山道は、先が見えないS字カーブが素敵だ。特にその道は落ち葉に埋め尽くされていて、遊歩道を歩く気持ちを盛り立ててくれる。何か森の空気に包まれている気持ちよさがある。

立田山-説明

 また分岐があり、そこをまた右へ曲がる。大きな道へ出る。そこをまっすぐ再び歩く。歩く。

立田山-頂上

 この石碑がある広場が頂上である。この場所には天皇皇后両陛下も登られたという事だ。この標高は151.7mで山道も整備されていてとても登りやすい。近隣には熊本大学もあって、熊本市街ほぼ中心部に位置している。ちなみに頂上付近の土はとても滑りやすいので注意が必要だ。

以前頂上で出会った猫は人慣れしていた。私が石碑に腰かけていると近づいてくる。立田山-頂上
帰り道

 帰りはただひたすらまっすぐに下ってみた。子供たちが追いかけっこ。つこけやしないかとヒヤヒヤしていたが、転ぶ子供はいなかった。ずっとなだらかな坂道が続いている為、ものすごい速さで駆け下る子供たち。こう言う場所があるという事は我々にとってどれほど嬉しい事だろうかと考えた。

上バー ジョウビタキの仁王立ち。烏のドッグファイト。
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とり

 山道まで降りてきて小鳥が木の実をついばんでいた。しかもその行く手を阻むように逃げようとしない。おそらくジョウビタキである。木の実を一つ二つ飲み込むと、後から来た仲間と飛び立っていった。実は飛び立つシーンまで撮りたかったのだが、この撮影の最中にバッテリーが無くなってしまい、予備と付け替えている間に去って行ってしまった。

カラスの喧嘩

 暫く道を進むと今度は、「カァカァ!」と聞き覚えがある声なれど激しいものが聞こえてきた。ふと上空を見上げると二羽のカラスがドッグファイトを繰り広げていた。3分ほどの戦いの末、どちらが勝ったのかわからないがスーっと飛び去って行く。今日は大晦日。午前中の散策はとても心身にとっていい。終わり良ければすべて良し。今年もいい年になった様だ。

撮影風景と私感

撮影風景-立田山

 この日は凍てつく寒さで手も足も氷のように冷たくなり、感覚が遠のいていくほどだった。冬の写真撮影では防寒が死活問題だ。寒すぎると撮影への集中が途切れ精神があらぬ方向へ持っていかれてしまう。熊本でも氷点下になる事もある。そうしたときにはこの立田山に点在する池すら凍ってしまうのである。

立田山に霜が降りる朝。日光を浴びて植物たちが目覚める。そんな朝をタイムラプスに。

立田紀行-TATSUTA Nature Park-

2017.01.28

上記は私の写真をまとめ、紀行というコンテンツにしたものだ。四季折々の立田山の魅力を記載している。

ABOUTこの記事をかいた人

学生時代にドイツを一周。ジャーマンレイルパスを使って鉄道の旅だった。そのとき始めて触れる空気に圧倒されたのだが、南ドイツに行くにつけ何か懐かしい空気を感じていた。放牧された牧野や美しい川が流れる渓谷。森林の中での散策。そんなときふと思い出したのは地元熊本の阿蘇だった。その景色や空気は阿蘇と似ていた。しかし、南ドイツにも阿蘇にも代えがたい魅力がある事に気づく。私は日本を一周した事がない、それと同じで多くのドイツ人も国を一周した事はないに違いない。私は極限られた自分の生きてきた土地のことも知らなかった事に愕然とする。生きている場所、熊本の魅力は何か、日本の魅力は何か、きっと多くの発見が身近に潜んでいるに違いないと思えた。そんな地元の魅力を発見、いや再発見していくのがこのブログの目的だ。多くの事実を知り、多くの方とそれを共有していくことが出来れば、私にとってこの上のない喜びである。